令和2年7月から法務局で遺言書を保管してくれる制度がスタートしているのをご存知の方は少ないのではないでしょうか。

制度がスタートして1年ですがまだまだ認知度が低いようです。

私も1度しか作成支援の依頼を受けたことがありません。

作成支援を行い感じたことを交えつつ今回は法務局保管遺言の作り方を詳しく解説したいと思います。

まずは遺言書の種類と違いを整理します。

公正証書遺言法務局保管遺言自筆証書遺言
証人必要(2人)不要不要
費用(実費)財産や遺言内容によって変動3900円無料
必要書類印鑑証明、運転免許証等、戸籍、
受遺者の住民票、財産資料等
運転免許証等の身分証明なし
関与機関公証役場法務局なし
手書きの箇所遺言者の名前のみ遺言全文
(財産目録はPCで可)
遺言全文
(財産目録はPCで可)
用紙サイズA4(公証役場が用意)A4なんでもOK
改ざん・破棄の可能性なしなしあり
内容の確認公証人の事前チェックありなしなし
死後の検認不要不要必要
遺言の種類

シンプルに言うと法務局保管遺言は自筆証書遺言遺言を法務局が預かってくれるサービスです。

自筆した遺言を自宅で保管するか、法務局で保管してもらうかによって手続きや費用が異なるということです。

法務局保管遺言作成の流れ

では法務局保管遺言の作り方を見ていきましょう。

  1. A4用紙(サイズ限定、文字の判別を妨げる地模様や彩色は不可)ペン等の消えない筆記具、印鑑(認印も可だが実印が望ましい)を用意
  2. 財産目録を作成(PC可)
  3. 遺言本文を手書き、署名捺印、封筒不要
  4. 法務局を予約(遺言者の住所地or本籍地or不動産の所在地のどれか)、保管申請書を準備
  5. 予約日に法務局へ行き保管手続き(所要1時間くらい)

以上で保管が完了し遺言者には保管証が発行されます。

遺言書の原本は永久的に法務局で保管され画像データが法務局のシステムで保管されます。

保管証イメージ
保管証イメージ

変更と撤回の場合も法務局の手続きが必要

なお遺言者や受遺者等の氏名、住所等に変更が生じた場合や撤回したい場合は同じ法務局で手続きをすることとなります。

この変更が生じた場合にもまた法務局で手続きをする、というのは他の遺言方式で求められておらずとても面倒に感じます。

受遺者が配偶者や子といった身近な家族であれば引越しをする事がわかるでしょうが甥や姪、また友人などの場合は最新の住所を知っておくというのは結構ハードルが高いのではないかと思います。

遺言を使うようになるまでに数十年かかるケースもあるでしょうからこの変更の手続きは法務局保管遺言のデメリットのように思えます。

もし受遺者の住所変更を知らないまま相続が発生したらどうなるんでしょうか疑問です。

遺言の効力自体には影響を及ぼさなので遺言自体は有効であるが法務局保管遺言を使う際に手続き上遺言執行者がこの住所変更の手続を行う必要があったりするのでしょうか。

この点はまた分かり次第お伝えしたいと思います。

また撤回について注意しないといけなのは遺言の保管を撤回するのか、遺言の内容を変えたいのかという点です。

遺言の保管を撤回するだけでは自筆証書遺言としての遺言は存在したままです。

内容を変えたいのであれば遺言の書き直しが必要であり、遺言の存在を取りやめるのであれば遺言保管の撤回後、遺言自体を間違いなく破棄をすることが必要です。

相続発生後の流れ

今回はシンプルに受遺者が法定相続人で遺言執行者かつ遺言の存在を知っていたとします。

  1. 被相続人の出生から死亡までの除籍謄本、法定相続人全員の住民票、戸籍謄本を取得
  2. 法務局へ遺言書証明情報を請求(保管法務局以外もOK・郵送もOK)
  3. 遺言書情報証明書が遺言書の代わりになり不動産や預貯金の名義変更

このように被相続人の除籍を集めないといけないため時間がかかります。

また、法務局は他の法定相続人へ遺言書が保管されていることを通知します。

法務局保管遺言のメリット・デメリット

まとめてみます。

【メリット】

  • 費用がかからない(法務局への手数料3900円、専門家に起案や事前確認を頼む場合は別途報酬がかかる)
  • 相続発生後の検認不要
  • 改ざんの恐れなし

【デメリット】

  • 遺言者が法務局に行かないといけない=判断能力だけではなく足腰も元気でないと行けない
  • 遺言の用紙の余白等の書き方が細かく決まっている
  • 遺言内容のチェックはされないため内容が無効である可能性がある
  • 遺言後の遺言者、受遺者、遺言執行者の住所が変わっただけでも法務局に変更手続きが必要
  • 相続発生後、戸籍を揃えて法務局に遺言書情報証明書を請求=すぐに遺言執行ができない

やはり法務局保管遺言より公正証書遺言が使い勝手よし

作成に携わった司法書士としては、相続発生後の検認不要というのはメリットであるがそれ以外は結構煩雑で一般の人が簡単に使いやすいという制度ではないという印象です。

また平日に遺言者が法務局へ行く必要があることや、書き方の様式が細かく決まっていることは一般の方に浸透しにくいの一因となっているのではないでしょうか。

さらに相続発生後、相続人や遺言執行者が法務局へ証明書を請求する必要があること等を考えると亡くなった時点からすぐに使える公正証書の方が相続人にとって非常に有り難いものであると思います。