「遺言」一般的には「ゆいごん」と読み、法律的には「いごん」と読みます。
読み方は重要ではなく何よりも残された人が使いやすく法的に問題ないものを作ることが重要です。
今回は遺言を書きたいがどのように書いたら良いのか、どんな種類があるのかといった基本的な内容をお伝えします。
大きく分けると遺言の種類は3つ
ざっくりと遺言の種類を分けると以下の3つです。
- 公正証書遺言
- 自筆証書遺言
- 法務局保管遺言
これ以外に民法には秘密証書遺言や危急時遺言といった気になる単語が散りばめられた遺言もありますが使うことはないと思いますので省略します。
一つずつ見ていきましょう。
遺言の王道、公正証書遺言
メリット1. 確実な遺言
公証役場で作る間違いのない遺言です。公正証書という公的書類になるため非常に強い効果があります。遺言というのは形式が細かく決まっていますが公正証書遺言では形式は公証役場で作ってくれるので形式的無効はありません。また内容も公証人が事前チェックと原案作成をするため安心です。
メリット2. 署名捺印するだけ
遺言を残す人は公証人が読み上げた遺言書の最後に署名捺印を行えばいいので全文を自分で書く必要がありません。体力が衰えてきて長い文章を自分で書けなくなっても大丈夫です。
メリット3.検認不要
検認というのは遺言者死亡後、家庭裁判所で法定相続人全員が集まり遺言を開封する手続きです。この検認が不要なので遺言者が亡くなった後は遺言者が死亡した記載のある最後の戸籍謄本と遺言を使って相続手続きを開始できます。
メリット4.紛失・改ざんの恐れなし
公正証書遺言はその原本を公証役場が保管し、またデータでも保管されます。そのため遺言者が紛失しても原本が公証役場で残っているため再発行もできます。遺言者の死亡後は相続人も遺言検索システムが利用できます。遺言書を見つけた誰かが書き換えてしまう、といったこともできません。
メリット5.公証人は出張もOK
出張費の加算はありますが公証人は自宅や病院、施設にも来てくれるので体力が衰えている場合も安心です。
ではデメリットもあるのでしょうか
デメリット1.費用がかかる
公証役場の手数料です。財産の内容によって変わりますが大体の相談者さんは5万円くらいから10万円くらいで収まります。財産が多い方や何人にも分けるような遺言の場合はもう少し加算があります。また原案作成や公証役場とのやり取りを司法書士や弁護士に依頼する場合はそちらにも費用がかかります。司法書士で10万円から、弁護士で30万円くらいからが大まかなイメージでしょうか。
デメリット2.証人が必要
公正証書遺言を作成する場合には証人2名が必要です。証人は特に資格は必要ありませんが、未成年者、推定相続人やその配偶者や子供はなることができません。遺言に関係ある人はダメってことです。通常は遺言作成に携わる司法書士や弁護士が証人になります。誰もいない場合は公証役場で依頼をすることもできます。
デメリット3.時間がかかる
今書きたい!と思っても公証役場との事前やり取りや印鑑証明書や財産書類の取得、公証人の予約状況に時間を要しますので早くても書きたいと思ってから1ヶ月はかかります。
受け取る人が大変、自筆証書遺言
次に自筆証書遺言についてです
自筆証書遺言はその名の通り自筆で書く遺言です。
メリット1.かんたん
最低限準備するものは紙とペンです。封筒は必須ではありませんがあるとなおよし。遺言の本文全文は自分で全部書く必要があります。現在、財産目録はパソコンで打ったものでも良くなったので少し楽です。証人も不要なので一人だけで書けます。
メリット2.無料
自分で書くだけなので費用がかかりません。これは他の遺言にはないメリットです。ただしもし内容の相談や書いた遺言の形式的なチェックを司法書士や弁護士に依頼すると費用がかかります。
メリット3.すぐできる
書こうと思えば即時にできます。細かく書かずシンプルな内容のものであれば10分くらいで書ける人は書けるでしょう。
デメリット1.無効になる可能性も
遺言は日付や書き方など形式が細かく決まっています。そこで不備があると遺言自体が無効であったり相続手続きには使えなかったりします。
デメリット2.紛失や改ざんの可能性も
自筆証書遺言の場合はその遺言書自体がきちんと残っていないといけません。よくあるのがあったはずなのに見つからないというパターンです。コピーが残っていたとしても原本がないとダメです。また遺言書を見つけた人が自分に有利なように書き加えてしまうこともあり得ます。
デメリット3.検認が必要
もし相続が発生し亡くなった方の遺言を発見したとしても封印をされている遺言はその場で開けてはいけません。家裁で法定相続人全員を集めて封を開ける検認手続を行う必要があります。また封印をされていない遺言も偽造防止などのため検認が必要です。相続手続きをするためにも必ず検認が必要のため遺言者の死亡後すぐに相続手続きは開始できません。この検認には亡くなったかたの最後の除籍謄本だけではなく出生から死亡までのすべての戸籍、また法定相続人の戸籍が必要となるため取り寄せに時間がかかります。
思った以上にハードルが高い、法務局保管遺言
最後は法務局保管遺言についてです。
これは令和2年7月から始まった新しい制度です。自筆証書遺言を法務局が預かってくれる制度なので自筆証書遺言の一種とも言えます。
メリット1.費用が安い
法務局への手数料は3900円です。財産の価格によって変動もないため公正証書よりかなりお安く作成できます。ただしこれも遺言書内容や申請手続きを司法書士などに依頼する場合は費用がかかります。なおこの遺言書保管の申請書作成は司法書士のみが代理できる専属業務です。余談ですが相続などで不動産の名義変更(登記)の代理手続きをできるのは司法書士と弁護士のみです。行政書士は登記申請や登記書類の作成をすることはできませんので相談先はご注意ください。
メリット2.紛失や改ざんの恐れなし
遺言書原本は法務局が保管してくれるので安心です。自筆ですが改ざんは不可能です。
メリット3.検認が不要
これは便利です、法務局保管遺言の一番のメリットと言えるのではないでしょうか。
デメリット1.自筆できる元気+法務局へ行く体力が必要
遺言書の本文は自筆で書く必要があるので財産目録以外は全文を書ける元気が必要です。また遺言者本人が法務局へ行く必要があるためある程度の体力が必要です。さらにどこの法務局でも受け付けてくれるわけではなく、ある程度大きい法務局しか窓口がないので近くにない場合もあります。
法務局保管遺言の管轄はこちら→https://www.moj.go.jp/MINJI/07.html
デメリット2.内容が無効な場合も
法務局は保管をする要件に適しているかについて形式はチェックしてくれますが内容にはノータッチです。そのため内容に不備があるものが出来上がる可能性があります。
デメリット3.変更届けが必要
保管手続き後、遺言者の住所や本籍、氏名が代わった場合は変更届の提出が必要です。ただし受遺者や遺言執行者の住所が変わった場合もと定められていますが、遺言者がどこまで把握できるのか、変更しなかった場合どうなるのかが不明です。
デメリット4.相続手続きを行う際には戸籍の収集が必要
どういうことかというと遺言者が亡くなってもすぐに相続手続きができないということです。遺言者が亡くなり、いざ遺言書を使おうと思った場合、法務局で「遺言書情報証明書」を取得する必要があります。そのためには亡くなった方の出生から死亡までの除籍、相続人の住民票等が必要となりすぐに相続手続きに入れません。公正証書遺言ではすぐにできることができないのです。
「やっぱり遺言は公正証書」
司法書士の業務の中でも預貯金の名義変更や不動産の相続登記には使えない、もしくは記載に不備があり他の相続人の協力が必要な遺言をたくさん見てきました。その全てが自筆証書遺言でした。
そして遺言に不備があるともめないために作った遺言のはずが逆にもめることになってしまいます。せっかく書くのにもったいないです。
公正証書はメリットがデメリットを大きく上回ります。どうせ作るのであれば受け取る方の負担が少なく喜んでもらえる遺言を作っていただきたいと思います。
日本公証人連合会によると令和2年の公正証書遺言の作成件数は9万7700件、司法統計によると自筆証書遺言の検認申立て件数は1万8277件です。自筆証書遺言は存在する遺言の数ではないため単純に数の比較をすることはできませんが、圧倒的に公正証書遺言が選ばれていると言っても過言ではないでしょう。